『百瀬、こっちを向いて』を読んだ。

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

★★★★☆ 4つ。
まず装丁が簡素で美しい。真っ白にブルーの光る文字で題名と作者と出版社。これに帯がついて売られていたけど、十分美しい。
そして内容も、帯に「ありふれた世界からいくらでも新鮮な物語を掘り出す」と評されるように、どこにでもありそうな日常が舞台。そしてちょっとあり得ない展開もあって、余韻の残る形で終わる。短編が4編。
余韻の残る物語というのは意外と少ない。ほとんどの小説は作者の手によってしっかり完結されてしまい、読み終わった後に「よかった」とか「面白かった」とかくっきりとした感想しか残さない。私の言うところの「余韻の残る物語」とは読後感として「どうなっちゃうんだろう」とか「こんな感じに私もなれたらな」とか、うまく言えないが読み終わってもしばらくじっとしていたい気持ちになる物語である。
それから仮名の使い方がとても感じがいいと思った。「そうおもった」とか「したしくする」とか、漢字でもいいような描写をわざわざひらがなにする。そうすることでとても丸みを帯びた丁寧な文章になる気がする。私が注意して読んでみたところによると、この本の中に「思う」は一度も出てこない。全て「おもう」だ。好みが分かれるところで、多分ここが好きじゃない、という方もいらっしゃると思う。
本の内容について具体的な感想は書かないでおくが、読んでいい気持になれるものだから、途中から読み終わるのがもったいないと思えてしまった本である。そういった小説にはなかなか出会えない。

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ちなみに、これから作品ごとにおすすめ度・満足度・完成度・好き度などを総合して★で格付けしておこうと思う。★5つが満点。でもなかでもひときわ輝く数冊は★6つ。6つは長年かかって自分の中で消化されて昇格するので今のところ『ワイルド・スワン』と『ノルウェイの森』のみ。それ以外は辛く付けようと思います。また、upします。